レイトショーと大人の女性の私。
Written by on 2020年4月14日
彼は私の首筋に顔をうずめて眠る。
私は彼の少し癖のある髪を撫でるのが好き。
ぼんやりと見上げる天井は、さっきまで部屋中に溢れていたふたりの騒がしい笑い声が染みついているようだ。
彼は眠そうに私の手を引いてベッドに入り、小さなキスをして目を閉じる。
子供みたいだと最近思う。
付き合いだして数か月。
物足りないわけではないけれど、時々突き放してやりたくなる。
五つも年上のくせに可愛いところがあって、私から好きになったのに、今ではそれすらも不安材料でしかない。
大人の女性の魅力って何だろう。とか、ばかげたことを真剣に考えるけれど、答えは曖昧なまま。
今日もふたりで笑いながら、おいしい夕食を食べて、ふたりで静かに眠るだけ。
私はひとり、レイトショーで古いフランス映画を見た。
彼は急な残業になり、泣いた絵文字をつけたメールをくれた。
映画を見るのは若いころから好きだ。
薄暗いきらきらとした街にほうりだされて、映画の余韻に包まれながら帰るレイトショーは特に。
その映画は退屈な女と男のラブストーリーなのに、私はこの映画を何度見たことだろう。
白い肩にシルクのシャツを羽織った女優のうしろ姿は、細い太ももをむき出しにして鏡の前に立つ。
彼女の細いだけの脚なんかより、私の脚のほうがよっぽど魅力的に感じる。
でも彼女はいつも、愛する人に愛されていて、私は夜の映画館にひとりきり。
店先でふいに手に取ったリビドーロゼ(http://www.brittandhive.com/)は、あの女優の香りがする。
それを手に取ったとき、私があの女優のことを考えていたのか、彼のことを考えていたのかはわからない。
あるいは、明日の私のことを考えていたのかもしれない。
私はそれを大人の女性のために使うと決めた。
大人の女性になるためではなく、大人の女性の私のために。
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